【その他雑感(19)-最近考えたこと:外出自粛期間中に(3) 】2020/05/06 12:36

 まだまだ外出自粛は続きそう。我慢して、外出を自粛し、色々考えることを継続する。

今回は、日本の労働生産性の低さを確認し、私が考える原因と対応策について整理してみたい。これからの日本の将来を色々考えたら、今回も超長文に。細かい部分は斜め読み、印刷はページ指定にして下さい。

 3月23日の日経新聞に次のような記事が掲載された。

“生産性、日本は劣勢続く 先進国平均との差広がる デジタル化遅れ影響か” 

 要約1: 日本の労働生産性は低い状態であり、主要各国(OECD)の平均以下になっている。

 要約2: 日経の分析では、労働生産性とデジタル化の進捗度に強い関連性があり、日本のデジタル化の進捗が遅いことが労働生産性の低さの原因の一つになる。

 このテーマをより深掘りしてみることにしたい。

先ず、労働生産性とは、一人当たりの生産量であり、国別での分析では、GDP/人口(上記レポートでは、総労働時間)で比較している。企業で比較する場合は、総売上高または利益/従業員を利用することが多い。

 日本の2018年度の労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)36ヶ国の18位、先進7ヶ国の最下位になっている。これまでの傾向は下図の通りであり、1998年以降ほとんど位置は変わっていない。

1990年までの高度成長期には上昇傾向にあったが、バブルが弾け安定成長期になると低位置のままになっている。労働生産性が低いままだと、給与も低いまま維持される可能性も高い。

何故、日本の労働生産性が低いままなのか? 日本は「おもてなし」精神が強いので、他国より時間を掛けるという説や日本は他国に比べて物価が安いのでGDPそのものが低いという説もある。しかし、実感として、個々の処理時間は日本人の方が速いと思うし、日本のGDPそのものは世界3位(2018年)であり低くはない。どうみても日本人の仕事は他国に比べて遅いとは思えない。であるのに、労働生産性はずっと低いままなのか? 私の考える理由は、余分な仕事をしているからと考えている。ここで、その理由や余分の仕事とは何かについて整理をしてみる。上述の日経の記事にあるデジタル化の進捗が遅い理由も合わせて考えてみたい。但し、既に企業改革が進んでいる企業も多いと思われる。あくまでも例として確認して欲しい。

 

  • エンパワメント・レベル

     先ず、労働生産性を考えるためのベースとして、エンパワメント・レベルについて触れておきたい。エンパワメントは、“力をつける“ということであり、社員一人一人が仕事を実行する力(パワー)を意味し、エンパワメント・レベルは、自主的に実行するレベルを表している。権限移譲と訳する人もいるが、エンパワメント・レベルに応じて権限移譲の割合を確保できると考えるべきである。レベルの定義も幾つか紹介されているが、ここでは次の5レベルとする。

  • レベル1 : 自主的に行動し、日次や週次報告等で上司に報告する

  • レベル2 : 行動を起こし、同時に上司に確認する

  • レベル3 : 上司に進言し、その結果で行動する

  • レベル4 : 何をするべきか上司に尋ねる

  • レベル5 : 何をするべきか指示されるまで待つ

社員は、自分自身の能力を向上させ、上司と相談・確認し、上位のレベルを目指す。上位レベルになれば、自分で判断できる割合が増加することになる。このエンパワメント・レベルを昇進や昇格の判断項目の一つに組み入れる考え方もある。組織的にも所属社員のレベルを高めることで、組織対応力や組織スピードの増強が期待できることになる。

欧米では、1990年代から人事政策の仕組みとして運用し、昇格や権限移譲の判断材料に利用している。しかし、日本ではエンパワメント・レベルという言葉は適切な日本語も無く、浸透もしていない。労働生産性の停滞と合わせて、その理由を確認してみたい。

 

A: 日本の労働生産性が停滞している理由の推測

 私なりに考えている停滞の理由は、大きく2項目、即ち、従来からの伝統的な部門最適化と多段階の組織形態である。

  1.  部門最適化と多段階の組織体系の背景: この2つの要素は、1990年代まで続いていた高度成長期に形成され、適用されていた。多くの企業で、毎年策定の経営方針を方針展開として、各基幹部門や事業本部に指示し、それぞれ部門方針を策定し、下部組織に展開していた。各部門で最適化を図り、多段階の組織形態を通して、計画策定(予算化)⇒下部組織で運用⇒実行管理を徹底していた。いわゆるタテ割り行政になる。

  2. 安定成長期(低成長)における部門最適化と組織形態の問題点: 安定成長期に入ると、一般的に最初に経費削減を目指す。この段階では、タテ割り行政の展開でも目標達成が可能であった。しかし、経費削減を長く続行すれば、企業規模縮小に陥る。企業規模の維持・拡大のためには、売上拡大の戦略展開が不可欠になるが、タテ割り行政による課題が多い。

  • 複数の部門のバラバラな戦略: 各部門で色々工夫して新規分野への参入を図るが、狙う領域が重なることも多い。混乱するのは営業部門やお客様で、企業内競合が発生する。

  • 競合の激化に伴う社内折衝の増加: 高度成長期では、暗黙の了解で市場の棲み分けが図られ、競合状態は最小限に維持されていた。安定成長期では、市場の取り合いになる。異業種や海外企業からの参入も激しくなる。お客様からの値引き、取引条件の緩和や特殊機能の追加等の要求のために主幹部門との折衝が必要になる。タテ割り行政の中で、先ず自部門の上位管理者に説明・説得が必要になる。上司が消極的であると作業量の負荷も大きくなる。自部門の説得の完了後、主幹部門への依頼になるが、例外処理の扱いになるため、承認獲得までの負荷は大きい。複合商品の場合は、関連する部門の価格責任者と個々に折衝することになり、大変な負荷になる。

  • 複雑な商談や社内プロジェクトの部門を超えるチーム編成の増加: インターネットで容易に各社の情報が把握可能であり、技術革新により選択の幅が広がる。その結果、市場や顧客の要望が変化し、単体商品はネットでの購入の割合が増え、営業との商談は、課題の解決や要望の満足を得るための提案依頼が増加する。依頼を受けた営業職は、1人では無理なことが多く、それぞれの専門分野を有する専門営業とチームで対応することが多くなる。複数の部門からダイナミック・チームを編成する場合には、それぞれの部門長と折衝が必要になる。招集したい専門職は所属部門の重要な戦力であることも多く、交渉のための作業負荷も大きくなる。

  • 部門内月次/週次の部課長会議: 安定成長期になると、業務目標の達成は容易ではなく、月次/週次会議で状況の確認、課題の抽出、対策の検討が議論される。数多い案件やプロジェクトの全てに関与しているわけではないが、上司から質問されて「未把握です」とは答えにくい。そのため、事前に質問されそうな状況について、部下に状況レポートを求めることが多くなる。部課長は大量の資料を抱えて会議に臨むことが多い。また、会議で対策を求められた場合には、部下を招集し回答文書の作成を求めることもある。月次/週次会議の前後には、部下の作業量が増えることが多い。

  • 課長の指示による作業指示の弊害: 安定成長期になっても、高度成長期の延長線上で課長からの指示で作業を進めるという企業も多いようである。各種の依頼や申請をする場合も課長に了解を得る仕組みも多い。2009年に行われた総務省のテレワーク実施試行で最初に紹介された機能が、テレワーク中の課長席のPCにセットされている課長呼び出しボタンだった。また、折角テレワークしている社員が捺印の依頼のために出社しているとニュースで紹介されていた。キャスターは対外的な書類の社印捺印の依頼のようだと説明されていたが、社印を必要とする類の書類はそれほど多くはないし、郵送でも間に合うことが多い。課長の判断を必要とする書類への捺印依頼の可能性が高いと思われる。
     課長の指示で活動している環境では、部下が自主的に仕事を進めると、勝手に動いていると判断されかねない。課長をスキップして上位管理者と相談することはタブーに近い。課長から見ると自分の存在感を軽く思われるという不安感が強くなる。
     最初に紹介したエンパワメント・レベルに当てはめると、部下はレベル3までが望ましく、レベル4,5は奨励し難い。高度成長期からの長年の考え方であり、簡単には変わらない。部下も自分の判断で作業を進める望みは低くなるが、自分で工夫することや判断する必要がないので、気分的には楽である。

    B: 労働生産性向上のために考えるべき対策

  • 全社最適化: 試行錯誤が多い状況で経営スピードを上げ、全体の生産性を向上するためには経営戦略の全社最適化が必要になるが、実現には極めて厚い壁がある。部門長が抵抗勢力になる可能性が高い。部門最適化時代の部門長はお城の殿様に近い。全社最適化になると、そのお城の明け渡しを要求される。今まで最適化してきた自部門の運営は、制限を受けるし、思い通りにならないことも生ずる。全社最適化には、最上級役員の強いリーダーシップが不可欠になる。

  • 管理者の役割の見直し: 安定成長期の管理者には新たな役割が加わる。変化の激しい市場や顧客の変化をタイムリーに把握し、経営戦略に迅速に反映させるというボトムアップの役割が求められる。市場や顧客の変化に接している第一線の社員から迅速に状況を確認し、統合し、集約し、上位管理者に伝達する双方向の方針展開に切り替えることが必要になる。
     また、経営スピードを上げるために、フラット組織に改革することも検討される。主に実務管理を担っていた課長職は専門職としてのグループ・リーダーの役割に切り替え、人材管理や組織管理を部長の役割に集約することも考えられる。

  • 総合職と専門職: 最近は、多くの企業で専門職の強化が進んでいる。市場や顧客が求める解決策を提案するようになると、社内・外に専門職のネットワークを準備し、必要に応じてダイナミックにチームを編成して活動することになる。部門や企業を超えて活躍する専門職も出現することもある。専門職は文字通り人的財産となり得る。例えば、経理部や法務部の社員が専門職として、解決策構築のチームに参加し、経理的、法務的なアトバイスをすることも考えられる。総合職の管理職も管理の専門職として人材育成の対象になる。米国では、外部の管理者研修のカリキュラムが豊富にあり、マネジメント・スキルを高めることを要求されている。

  • エンパワメント・レベルとエンゲージメント・レベル: 新しい仕組みの展開により、社員は高いエンパワメント・レベルを目指すことが望まれる。エンパワメント・レベルの向上とエンゲージメント指数(社員のやる気、企業への貢献意欲)が相関するという論文もある。どのように計測したか不明だが、

  • 図にあるグラフでは日本の社員のエンゲージメント指数は低いと表示されている。エンパワメント・レベルを高めることを昇進・昇格の基準に組み込むようにし、管理者も含む全社員が高い専門性を追求することが望まれる。従来は、昇進のために管理者を目指す傾向にあったが、これからは専門職としての昇進・昇格の体系を構築する必要がある。
     このような対策を実現するためには、企業内の仕組みの大幅な改革が必要になる。新型コロナによる外出自粛の要請で活動が制約されている今こそ改革の絶好の機会になる。思い切って、新型コロナの収束時には、新しい仕組みで再開できるようにすべきである。

    C: ディジタル化への対応:

  • 守りの投資から攻めの投資へ: 安定成長期では、先ずコスト・経費の削減を推進し、次の段階で売上拡大に切り替えることが多い。それに伴い、デジタル化の米国での傾向は、守りの投資から攻めの投資に切り替わっている。しかし日本では、依然として守りの投資が継続している。


  •  経費削減の段階では、従来通り基幹業務を担当する部門が守りの投資を推進できる。しかし、売上拡大のための攻めの投資には、営業部門やマーケティング部門が主導する必要があるが、主幹部門が強いためなかなか移管されない。
     攻めの投資に切替えるためには、全社最適化の中で売上拡大戦略を展開することが必要になる。基幹業務の機能を分解し、全社最適化の仕組みに再構築することになる。

     デジタル化の中心になるクラウド、IOT,AI等の新技術は、これまで触れた対策を実現するために非常に有効になる。ITコンサルタントの支援を受け、基幹業務を機能分解し、クラウドを活用して新しいものに組み立て直す。できるだけパッケージを活用し、徹底的にシンプルな仕組みにして、最小の工数で、最短の期間で実現できるよう工夫する。AIの活用は難しいことは考えず、先ず従来の作業で、社員がつまらないと思う作業にAIを利用することから開始し、社員はより創意工夫が必要な活動に集中すべきである。

  • 電子決済: 外出自粛要請の中で、電子決済の採用も勧められている。電子決済を支援するパッケージも色々あるので導入することは難しくはないが、導入前に徹底して現在の社内伝票の見直しを実施すべきである。改革後の伝票の必要性を確認し、更に捺印欄にある承認者の必要性を吟味する。重要な伝票については、決済権限ルールを設定し、電子決済システムに反映させるべきである。

  • テレワーク: 4/23の経団連の発表では、調査した406社では97.8%の実施率となっている。一方、LINE分析等での発表では27%となっている。要は、企業としてはテレワークの環境を準備しているが、社員の利用度合いはまだ浸透していない状況になっている。エンパワメント・レベルの高い社員はテレワークの利用で生産性は高まると期待される。
     一方、テレワーク実施中に不安を感ずる人や孤独感を持つ人もいる。作業指示や指導が必要な若手や経験不足社員には、アドバイザーを任命し、グループ・リーダーやアドバイザーと容易に相談できる仕組みにすることが望まれる。

  • オンライン会議: 日本でも、IT企業や外資系企業ではオンライン会議は良く利用されている。米国では2001年の911以降、オンライン会議の利用頻度が高くなっている。911直後、航空機利用は敬遠され、出張を伴う会議は開催できず、オンライン会議が主流になっている。人数の多い事業所では、会議室に集まり、他の事業所からはオンラインで参加する形式も多い。最近のニュースではTV会議を紹介しているが、企業での会議にTV利用はそれほど必要ではない。現実の会議は、議題を議論し、何かを決定することが多く、説明者が準備した資料をたたき台にして議論する方式が多い。参加者は顔写真の表示で充分確認できる。管理者が主催する顔見せ的な会議は不要不急とし、管理者からの通達メッセージは動画配信で充分カバーできる。

     

    新型コロナの収束後の経済は急速に回復するが、一律ではなく、効果的に対応した企業が伸び、旧態依然とした企業は取り残されると言われている。絶好の機会になるこの数ヶ月間で企業改革に取り組むべきと思われる。我々の投資計画も各企業の取り組みの分析が必要になる。じっくりと投資先を検討したい。

     




【その他雑感(20)-最近考えたこと:外出自粛期間中に(4) 】2020/05/25 16:27

 外出自粛は5月25日全国での解除が決定された。その後は、どうなるか? 世界中で、出口の判断基準が色々議論されている。ワクチンと効果的な治療法が完成するまでは終息しないと思うが、自粛の段階を工夫して、収束してくれれば良いのだが。今回は、地方自治体について考えてみた。色々調べた結果、またまた長文になった。興味のあるところだけ覗いて下さい。印刷は必ずページ指定にして下さい。

 

最近は、コロナ感染者数の動向とPCR検査の仕組みが大きな話題であり、保健所の在り方や検査の集計の仕組みが種々議論されている。そこで、日本の地方自治体の在り方と自治体でのIT行政について考えてみる。その中で私の考える解決方法として新しいリージョン(地区)制とリージョンCIOについて整理してみたい。

A: 地方自治体の現状と課題

  1. 地方自治体の現状と団体数縮小(平成の大合併)の推移: 

    総務省発表の最新状況(2019/03末)で地方公共団体数および職員数は次の通りになる。
    団体数:1765(都道府県=47、市=792、町村=926)
    職員数:274万人(教育部門=101万、警察部門=29万人、消防部門=16万人、福祉部門=37万人、公営企業会計部門=35万人、福祉を除く一般業=55万人)

      地方公共団体は歴史的に数回の大合併で縮小してきたが、最新の平成大合併(平成7年から開始され、平成17年頃ピーク)により平成6年の3288から昨年の1771まで縮小(53%)している。それに伴い、全体の職位数も図のように、328万人から274万人(83%)まで縮小している。 

 
  1. 新型コロナの対応に見られる地方自治体の課題: 20年以上かけて、団体数はほぼ半減、職員数は約2割減と相当な努力の結果と思うが、本来の主目的から見るとまだ課題は大きいと感ずる。今回の話題の保健所も、ピーク時の852ヶ所から現在の469ヶ所と大幅に削減されている。地方自治体に限らず、経費削減や要員削減の指示が一律に出されると、本業は削減せずに下工程への支援作業を容易に削減することが多い。地方自治体に見られる課題を整理してみる(かなりの憶測含みではあるが)。

  • 超タテ割り、上下割り行政: 官庁、自治体のタテ割りは、各種の報道で我々も良く知る話だが、地方自治体での上下割りも強い。都道府県-市区町村の関係は上下の連携は極めて少ないように感ずる。今回の新型コロナの保健所での感染者データから、私の住む船橋市-千葉県-厚労省の連携を確認してみる。船橋保健所は、先ず船橋市に報告し、同時に(orその後に)厚労省に報告。千葉県は船橋市から報告を受けている。が、どうやら市川保健所は千葉県に報告し、市川市は千葉県のデータを参照しているように見受けられる。厚労省のHPでは、面白いことに、次の注釈付きで感染者数を掲載している。“令和258日公表分から、データソースを従来の厚生労働省が把握した個票を積み上げたものから、各自治体がウェブサイトで公表している数等を積み上げたものに変更した。” 
     新型コロナの対応では、新規感染者数は極めて重要な指標なので、本来は保健所⇒厚労省⇒地方自治体のルートであって欲しいのだが、誰も指示は出していないように思える。企業でもタテ割りの強い場合もあるが、緊急事態での報告ルートの指示はスムーズに徹底されることが多い。地方自治体の上下割りは独特の大きな課題と思う。
     これと同じ理由と思われるが、横の支援、上下の支援体制についても非常に弱い。今回の保健所でのPCR検査でも要員不足が問題視され、色々支援の申し出があったのにも拘わらず実現せず、全く別にPCR検査センターを設置する自治体もある。首相の依頼でもなかなか体制が整わない。

  • 部門横断的プロジェクトは実現が困難: 今回の新型コロナや災害対策では、部門を超えた対策チームの編成が必要であり、全体のプロジェクト管理が非常に重要になるが、地方自治体にプロジェクト管理の専門家は少ないし、計画的に育成しているとも聞こえてこない。国レベルでも、今回の新型コロナの対応を見るとプロジェクト管理の責任者がいるようには見えない。結局、災害対象地区の知事や新型コロナの西村大臣が責任者となるが、プロジェクト管理をしているようには思えない。米国に倣ってFEMA(連邦緊急事態管理庁)のような省庁の提言も出されているが、新型コロナの対応が落ち着いたら、国と地方自治体を連携した組織の設置が不可欠と思う。

  • いエンパワメント・レベルを維持したまま:地方公共団体の職員のエンパワメント・レベル(下記)はレベル5に限りなく近いのではないかと思われる。上司の指示というよりも、マニュアルの指示に従うことが多いように感ずる。住民の利便性を配慮することや職務の生産性を高める工夫や提言を行うことよりも、マニュアルに正しく従う傾向が強いのではと感ずる。作業の品質を維持するためには、マニュアルの徹底は極めて重要だが、色々工夫して効率や利便性の向上を図る自主性を高めることも奨励して欲しい。

    レベル1 : 自主的に行動し、日次や週次報告等で上司に報告する

レベル2 : 行動を起こし、同時に上司に確認する

レベル3 : 上司に進言し、その結果で行動する

レベル4 : 何をするべきか上司に尋ねる

レベル5 : 何をするべきか指示されるまで待つ

  1. 地方自治体におけるIT行政の課題

    製造業を担当していた元IT屋から見ると、地方自治体の(国レベルでも同様であるが)ITシステムは古い。技術革新が急速に進み作業効率や品質を高めるものがどんどん展開され、ITシステムの実用化も極めて簡単にできるようになっているにも拘わらず、これまでの書類中心の仕組みへの改革は検討されないように思われる。今回の新型コロナの対応を見ると、首相から国民まで感染者数の推移を注目しているのに、いまだに紙ベースでの集計作業のままになっている。保健所から新型コロナ専門家会議の間に、ITの専門家がいれば、2/15からのクルーズ船の対応の中で最新のIT技術を活用した集計システムが1~2日で準備されていたはずである。政府、専門者会議、自治体の中の誰も提言しなかったことは極めて不思議である。新規の検査と2回目以降の検査の区別がつかないため、PCR検査数が集計できない。PCR検査の受付けても検査待ちの日数(ピーク時は7日以上)があるため検査の感染率が計算できない。集計ミスがあったため、遡って修正が入る。この状態が3ヶ月以上放置されている。多分、保健所の医師に仕組みを変える負担を掛けたくないという理由ではないかと思うのだが、ITの専門家が準備すれば、医師の負荷は却って少なくなっていたはずである。

    B: 地方自治体のリージョン制展開の勧め 

     地方自治体を6~8リージョン(地区)程に統合し、企業で言えばホールディング・カンパニーとして定義し、コア業務をリージョンに統合し、各自治体は本来の業務に集中する仕組みにする。以前議論されていた道州制と少し考え方が違うので、リージョン(地区)と呼ぶことにする。

  1. 1) 数年前に議論されていた道州制との違い: 数年前に種々議論された道州制は賛否両論で、いつのまにか話題から消えている。議論された道州制も種々あったが、自民党基本法案に対して、全国町村会が反対し、道州制の課題を発表している。ここでの道州制の概要は、都道府県に代わり、道州を設定し、一部の国の事務事業を移管する。現在の市区町村を基礎自治体とし、都道府県の一部の事務事業を移管するとしている。全国町村会が指摘する課題は、集約すると、市区町村(基礎自治体)の事務事業の負荷が大きくなること、基礎自治体という一律の考え方で、市が主力となり、町村は地位が低くなる恐れがあり、町村は更なる合併を要求される可能性があること、結果として地方の自治力が衰退する等を挙げている。
     リージョン制では、都道府県をリージョンに統合することは同じであるが、リージョンに人事、総務、経理等のコア業務を一本化することにし、各市区町村に必要要員を派遣する。ポイントは、リージョン組織一体で、効率を上げ、地方自治のサービス・レベルを上げることにある。効率を上げるため、リージョン内の重複の徹底した排除、各職員の専門性強化による作業効率の向上を図る。サービス・レベルを上げるために、職員を最適配分し、特に、介護・福祉の拡充を図り、災害対策等の非常事態に備えて臨機応変に横・上下の連携できるようにする。

  2. 2) リージョン制で考慮すべき項目: リージョン制のイメージを具体化したいので、仮に首都圏の1都3県を首都圏リージョンとしたと想定してみる。現行の都・県の議員と職員は次のようになる。



  • リージョン内でのコア機能の統合と各組織体の役割分担: 人事、経理、総務等のコア機能はリージョン管轄として、市区町村の担当職員はそのまま市区町村を支援する。都道府県に所属する職員はリージョンに集約し、リージョンでの役割に従って最適化する。消防部門、警察部門、教育部門および福祉関係行政は、リージョンと市区町村の連携を強化する。一例として、年度方針、予算はリージョンに集約し、活動実施および管理は市区町村が実施して市区町村長およびリージョン部門長に報告する。福祉をのぞく一般行政では、ITを活用したリージョン共通の活用仕組みを構築し、徹底して利便性の追求、作業効率の向上を図る。効率が上がれば、余裕時間で新規の機能として、スマホ等のIT技術を活用して、住民からの要望や苦情を収集・集約して、市区町村およびリージョンに報告することも可能になる。 

  • リージョン内の会議体の在り方: 従来の市区町村議会と都道府県議会の連携は少なく、むしろ重複が問題視されることもあった。ここ数年間の大阪都構想の議論は、府議会と市議会の重複の解消が主題と理解している。現在、地方自治体に求められていることは、表面化した問題に対応することではなく、問題を予測して対応策を検討・実施することにある。そのために、住民と接触している第一線の職員からの最新の状況をタイムリーに把握し、リージョン全体で課題解決を図ることが必要になる。従って、自治体の上下割りを解消し、市区町村議会とリージョン議会の連携を図ることが重要になる。 一例として、リージョン議会を次の3つの機能で構成する。
     ①リージョン全体の年間計画、中期計画を構築し、リージョン、市区町村の予算配分を準備・決定する。 
     ②消防、警察、教員、福祉等の部門を管理する。要員計画、年次計画を決定し、市区町村のそれぞれの部門と連携して実施を管理する。
     ③地域(例えば従来の都道府県)代表のリージョン議員と市区町村長・議長で構成し、日々の課題・
     要望・不満を把握し、対策を検討・実施する。
    議会運営は、月~木曜日で①,②,③を開催し、金曜日を全体会議とする。市区町村会議は、③の議会の前日までに課題・要望・不満と検討したい対策案を議論しておく。それぞれの議会で決定された行動計画は、責任者と期日が決められ、次回の会議で進捗状況が議論される。①,全体会議は月次開催、②,③は週次会議とする。

  • リージョンとしての緊急事態対応等の組織横断機能: 今回の新型コロナ対応や昨年の災害対策等では、組織横断的なプロジェクト・チームの編成が必要になる。ダイナミックにリージョン内外の専門家や職員を招集する仕組みが必要になるが、それ以上にプロジェクトを管理するリーダーや専門家の育成が重要になる。リージョンの人事政策の中で各種専門家の計画的な育成を検討する必要がある。リージョン内の産業育成や観光のプロモーション等でも複数の部門の参加が必要になる。今後必ず発生するものとして、地域と企業のコラボレーションによる研究プロジェクトが考えられる。自動車業界のCASEと地域コミュニティがスマートシティの研究を開始しているし、新型コロナ対応の新しい働き方の展開として、IT企業と連携したオンライン教育やオンライン診療等の拡充の研究、農業、水産業、林業等と企業のコラボレーション等々、自治体と企業あるいは農協、郵便局等との連携が広がると予想される。

  • 介護サービスや児童相談所等の福祉サービスの拡充: リージョン制の大きな狙いの一つは、上述のような改革を通して要員・予算を削減し、介護や福祉の強化に繋げることである。上述の改革で、全地方公共団体の270万人の職員の20~30%程度は削減可能ではないかと考える。例とした首都圏リージョンであれば、10万人強の職員を介護や福祉サービスの拡充に活用できることになる。

  1. 3) リージョンCIOの任命とリージョンIT行政: 上述のリージョン制の仕組みには、最新のIT技術の活用が不可欠になる。リージョンIT行政に必要な考え方について考える。

  • リージョンCIOの任命: リージョン内のITシステムは、CIOを責任者として、リージョンで一元管理する。リージョンCIOは外部から最新のIT技術の実務経験者を招集して任命すべきである。国レベルでもCIOを任命し、官公庁全体でのIT行政の責任者とし、リージョンCIOと連携を取ることが重要になる。地方自治体のITシステムは、基本機能は全国共通で準備する。リージョンや市区町村での独自に必要な機能は最小限とし、リージョンCIOの判断で追加する。新しいリージョンIT行政で考慮すべき要素を整理してみる。
     クラウドやAI等の最新技術を活用し、リージョン内事務活動の生産性向上、住民への利便性の追求、短時間でのシステム開発等を実現する。世界的に見ると、現在の日本の官公庁でのIT利用レベルはOECDの中で、極めて低いレベルにある。地方自治体での海外の先進事例の調査レポートも多い。世界での先進事例を大いに参考にすべきである。韓国や台湾には参考にすべき点が多いはずである。またIT業界の中では、エストニアの官民一体の考え方の評判が良い。将来の参考にすべきと考える。
     企業でもディジタル化による改革が急激に進むことになるが、多くの中小企業ではなかなか進展していない。地方自治体の産業振興としての支援が強く求められる。リージョンCIOとそのチームは、地域の中小企業のディジタル化に対する指導・支援の仕組みも検討・推進する必要がある。

  • マイナンバー・カード、法人番号カード、在留カードの活用: 現在は、役所で何か依頼する場合は必ず伝票記入から始まる。今後は住民への案内を徹底し、市区町村の役所に行くときは、必ずカードを持参する習慣にしたい。来年3月からはマイナンバー・カードが保険証に切替え可能になるので、徹底し易くなるはずである。法人カードや在留カードの経験はないので、マイナンバー・カードを例にする。先ず、入り口にセットされているPC/タブレットにマイナンバー・カードを投入し、メニューから何をしたいか選択すると窓口と指定の伝票が印刷される。表示された窓口へ行き、伝票に署名し、担当職員に提示する。将来、伝票の必要がなくなれば、窓口で職員に名前を告げ、依頼内容を伝えることになる。依頼内容が住民票発行等の簡単な要請の場合は、コンビニのKIOSK端末と同様に、その場で書類が得られることになる。マイナンバー・カードが未発行や暗証番号不明の場合は、パスポートや健康保険証等の身分証明書持参で指定の窓口でサポートを得る。住民の利便性が向上すると同時に職員の応対の効率も向上するはずである。

  • 伝票と書類の排除: リージョン制自治体では、書類文化を終結し、IT活用文化に切り替える。IT利用が不慣れなお年寄りの支援にも工夫する必要がある。銀行等で実施しているフロア・ガイド等の仕組みも必要になる。それ以上に、自治体内部での意識改革は不可欠になる。書類での保管から電子ファイルの保管に切り替えると、隠し帳簿や二重帳簿は困難になる。電子ファイルでは、更新状況も記録する仕組みにすれば、改竄は容易ではない。上述の会議体を運用するためには、議事録を作成し、必要な議員・職員で共有することが必要になる。承認印のようなハンコ文化も、電子署名文化に切り替える。オンライン承認手続きになれば、大幅な時間短縮につながるはずである。

  • リージョン・データベースの構築、全リージョンでの共有: リージョン内のITシステムは、基幹的業務は統合すべきであるが、単発的な業務や地域特有の業務は、リージョンCIOと確認の上、個別に展開可能にするが、ルールとしてファイルはリージョン・データベースに保管する。これらのデータベースは、いわゆるビッグデータであり、リージョン内での分析に活用される。多くの情報は、民間のビッグデータ分析への提供も要請されるものであり、地方自治体と各種団体・企業との連携に有効なデータとなる。
     他のリージョンとの連携も容易であり、共通する分析にも活用できるし、住民移動に伴う種々の情報の移管・共有も容易になる。また、災害の備えとしてのバックアップ・ファイルもリージョン間で相互に保管することができる。

  • 今回の新型コロナ対応でも政府からの多くの通達が出され、地方自治体ではその対応で大混乱になっているようである。例えば、特別定額給付金の対応では、4/20に閣議決定され、私の地元の船橋市では、5/1にオンライン申請が開始され、5/18に郵送での通知が開始され、5/23に私の手元に配達された。オンライン申請の難しさが色々報道されているが、私の場合は、暗証番号も記録しており、ICリーダーもあったので、5/21に約30分で申請を完了した。報道では、オンライン申請では、目検に時間が掛かるので、郵送対応より遅くなる可能性ありとも言われている。自治体によっては、オンライン申請を使わずに郵送して欲しいと案内しているとか言われている。私の5/21申請の給付金はいつ入金されるか? 船橋市の対応力はどうか、楽しみでもある。
     今後とも政府からの通達は多くなると予想されるが、そのたびに各地方自治体が個別に対応する仕組みは早急に改革する必要がある。リージョン制では、リージョン統一の仕組みで展開し、郵送でもオンラインでも共通のITシステムで人手を介さない検査を出来るようにすれば良い。AI技術から見れば、この類いのオンライン検査は容易な作業の一つである。新型コロナの対応では、官公庁のスピードの遅さが顕著になっている。新規通達の対応では、クラウドとAIの徹底利用で、短期間での実現、目検に変るオンライン検査、住民への利便性の実現を図るべきである。

  • 最期に、新型コロナの感染管理の仕組みについて言及したい。これまでのファックス利用の感染者管理は早急に新しいものに切り替える必要がある。自粛解除を期に、ようやくあちこちから新規の管理の仕組みの提唱がでている。本来の自粛要請の目的は、医療体制の崩壊を回避することにあったはずであるが、いつの間にか感染者数の管理に変っている。感染者数を減らすことも重要であるが、治療薬やワクチンの完成までの半年から1年間の医療体制の拡充と感染者検査の仕組みを体系化し、管理する指標を明確にする必要がある。仕組みと指標が明確になれば、管理のためのITシステムは1週間以内に実現できるはずである。台湾で新しく任命された36歳のIT担当が、感染者追跡システムを2日で実現した話が評判になったが、最新のIT技術の活用で実現はそれほど難しくはない。管理の仕組みと指標を誰が責任者として設計するのかを決める方が難しい。当然走りながら試行錯誤で変更しながら、第2波、第3に備える必要がある。新型コロナ収束に効果的な管理の仕組みが今後のリージョンIT行政のたたき台にすることが望まれる。

     

    色々憶測を含めて整理してみたが、現在地方自治体に携わっている人はほとんど反対するだろう思っている。でもこんな地方自治体が実現できたら凄いと思うのだが。 自粛中の夢物語かも!?